メディヴァ代表大石佳能子による連載コラム | 医療経済を斬る

「自由診療とマーケティング」

2009.09.29

「マーケティング」とは、文字通り「マーケット(市場)」+「イン」(上市)を指し、「市場創造」とか「市場開拓」と同義で、ビジネス界では、会計と並んで最も重要な概念とされている。「保険診療」の世界から「自由診療」の世界へ、クリニックの事業の拡大を考える場合も、避けて通れない概念である。

 

「マーケティング」は、商品・サービスを上市する前の活動と、上市した後の活動の2段階に分かれる。上市前には、顧客を特定し、そのニーズを調査し、適切な商品・サービスを設計する。その時、商品・サービスの内容だけではなく、価格なども決めなくてはいけない。また上市後は、各種販促(広告、PR等)を行ない、ターゲットとする顧客にその商品・サービスについて知らしめないといけない。注意したいのは、「マーケティング」は、提供者が商品・サービスを提供者に押し付けるのではなく、必ず「マーケット」(顧客ニーズ)から発想していることである。

 

では自由診療におけるマーケティングとは、具体的にはどのようなことをするのであろうか。

 「マーケティング」には3つのステップがある。「ターゲットの設定」「ポジショニングの定義」「マーケティングミックスの展開」である。

 

1)「ターゲットの設定」:市場をセグメントし(細かく分け)、対象となる顧客(患者)を決める。社会が多様化するなか、顧客によって求めるものには差があり、どの顧客をターゲットとするかで、商品・サービスの組立が異なる。

 

たとえば「健康診断」を例に考えてみよう。顧客は様々である。徹底的に自分の体の棚卸しをし、隠れた病気がないかを把握するためにお金を惜しまない裕福な個人もいれば、法律で決められているので健康診断を実施しなくてはならず、できるだけ安価に手間をかけたくない企業の人事担当者もいる。どちらの顧客を狙うかによって健康診断の内容も付帯サービスも全く異なってくる。

 

2)「ポジショニングの定義」:対象顧客(患者)が評価する軸を絞り込み、競合との差別優位性を確保する。ねらったターゲットにとって自分の商品・サービスが魅力的であるようポジショニングを定める。

 

 仮に後者の企業の人事担当者をターゲットに選んだとしよう。競合となる医療機関と比べて差別化できる、顧客が評価するポイントは何だろう。価格は当然あるだろう。特に法定の定期健康診断の場合は、実施項目が定められているので価格の比較検討が容易である。

 しかし、ここで重要なのは価格のみが差別化のポイントではないという点である。人事担当者にとって健康診断の実施は手間が掛かる業務である。クリニックのほうで受付をして、実施日時を決めることは担当者にとって非常にありがたい。また、昨今は特定健康診断結果のデータ提出が義務化された。結果をXML形式のデータで提出できることも差別化のポイントとなる。また女性従業員にはオプション検査として最近関心の高い乳ガン検査ができることも差別化要因となる。このように、価格以外の差別化ポイントは多種存在する。

 

3)「マーケティングミックスの展開」:マーケティングミックスとは、マーケティングの4つのP(Product(商品)、Price(価格)、Promotion(販促)、Place(場所))をさす。

 

Product(商品):自由診療で取り扱う商品そのものである。伝統的なものとしては、健康診断や予防接種、美容皮膚科の処置があるが、最近一般化しているものとしてはサプリメントや各種のアンチエイジング関連の治療、処置(キレーション、プラセンタ等)が上げられる。

 

Price(価格):自由診療であるから、価格は自由に決定できる。価格の設定方法は「コスト」から算定する方法(コストにある程度の利潤を見込んで算出)と市場から算定する方法(競合する他院の価格を参考に算出)があるが、通常は両方を算出し、それらを参考にしながら設定する。


Promotion(販促):当該商品が存在することを知らしめる方法を指す。一般的に医療関係の広告、販促は規制、制限されているが自由診療の場合、現実的にはかなり緩やかに運用されることが多い。一方、販促には必ず費用が掛かるので、投資対効果を把握しながら実施することが求められる。


Place(場所)):一般的な商品のマーケティングであれば、店舗等の販売の「場」を意味する。クリニックの場合であれば、院内の環境、雰囲気を指す。自由診療である程度の価格設定を行なう場合、院内の雰囲気やスタッフのサービスがそれに適しているかを検討することが求められる。保険診療を離れたとたん、「患者さん」は「お客様」になり、通常のサービス業に求めるもの(場合によっては、それ以上)が要求される。自院が「お客様」の要求に耐えられるかどうか、客観的に判断すべきであろう。

 

 

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