震災前から続けてきた計画で、新病棟の建て替えをご支援している案件が3件あります。2件は既に着工しており、1件は基本設計の真っ直中です。世間的には自粛の雰囲気もまだまだありますが、病院の建て替えは、皆様、ぎりぎりまで既存施設の老朽化を待ってのタイミングでもあって、患者さんのことも考えて、いずれもこのまま進めようというお話になっております。我々としても、考え方は色々ですが、こう
いうときだからこそ、前向きで夢のある仕事として取り組んでいます。
ところで、この病院を建て替えるということにあたって、僕らが意識していることは以下の通りです。
1.まず戦略ありき、事業の優先順位を決定する
2.幅広い意見を聞くが、決定権は一人(理事長等)に集約化する
3.建設界の常識にとらわれず、慎重にトータルで安くなる設計をする
1.まず戦略ありき、事業の優先順位を決定する
当たり前のことですが、病院を建て替えるタイミングは、経営戦略を見直す絶好の機会です。当然、今までやってきたことを何も変えずに建てるという考え方もありえますが、基本的には、市場環境や競合の動向などを見て、伸ばす分野、縮小する分野を取捨選択していくことになります。
通常、病院を建て替えることは、減価償却や金利負担などが増えるため、成長が無ければ利益の引き下げ要因となります。売り上げの成長を考える場合、既存事業の単価と患者数、および新規事業への展開といった視点がかかせません。この場合、既存事業の単価や患者数があがるということは、高度医療を手がけた
り、病院全体のキャパシティを増やしたり、または競争力のあるサービスを手がけるなどを意味します。これは、ハード以前にソフト(人材、業務、システム)の影響が大きくなり、実は施設を建て替える前に、経営的に何を目的とするのかといった点が整理されていることは、絶対に必要です。
最も、やってはいけないことは、既存の事業の延長として建て替えればなんとなく単価と患者数が増えるだろうと考え、不動産担保中心にしか見ていない銀行の貸出枠を過度に信頼して借りられるだけ借りて、できるだけ豪勢な建物を建てることだと思っています。そうではなく、事業戦略を立て、それにあわせて単価や患者数の推移を予測し、そしてそれに沿った無理の無い投資を意識していくことが重要なポイントとなります。
2.幅広い意見を聞くが、決定権は一人(理事長等)に集約化する
合議制で民主的な理事長(オーナー)にありがちなのが、常に現場の意見を聞いて話しを進めることです。建て替えにあたって現場の意見を聞くことは、必ず必要なプロセスですが、各現場は自分達のことしかわからないため、話しを聞き過ぎるといびつな結果となってしまいます。
我々の考えとしては、病院の建て替えという極めて重要な経営判断にあたっては、建て替えるかどうか、建て替えの基本設計などにおいては、最終的には理事長一人のトップダウンで決めるべきと思っています。どれだけ練った計画も、できあがってみれば、不満な点が必ずあります。その不満を受け止める意味でも、また当初予定していた戦略に注力して計画を立てる上でも、最終的なトップダウンでの意志決定は重要です。
3.建設界の常識にとらわれず、慎重にトータルで安くなる設計をする
設計にあたって、いきなりゼネコンなどの建設業者に声がけする病院がありますが、これはコスト高になる可能性の高い方法だと思っています。新棟建設で、一番お金が動くのは建設の施工です。なので営業訪問が頻繁だったり丁寧にするのはもっともな話しで、それでも大きな仕事を手に入れられれば彼らは帳尻があいます。また、建設コストについても、残念ながら高ければ高いほど営業の意味があるため、どうしても全面建て替えや要望をできるだけ盛り込んだ大きなものに偏り勝ちです。このような提案からは、坪80-100万と言われている病院の建設コストにイノベーティブに挑んだ計画は出てきにくいです。しかしながら、方や高齢者住宅などの世界では坪40-50万などの低コスト物件もあるため、病院の方向性によっては、本来、幅広い選択肢があります。
戦略にあったバランスの良い設計・建設を進めるためには、建て替え規模の縮小や機能削減などの意見がきちんとフィードバックされる体制を作る必要があります。例えば、設計士は独立してお願いすることだったり、第3者の意見を取り入れる体制を整えることが重要です。
建物は、一度建てると20-30年は使う必要があり、またそれと平行して金融機関への返済も長期にわたることが多いです。そのため、新棟を建てるという興奮や夢は持ちつつも、冷静な視点を忘れずに、バランスの良い設計を心がけていただきたいと思っております。逆に、良いバランスの建物で実現する事業は、コストが抑えられ、借入金返済も前倒しで進むため、更なる発展を見込める余地がでてきます。是非、新棟に足を引っ張られるのでは無く、新棟で弾みをつける経営を実現していただきたいと思っています。




