医療機関経営の日記 | コンサルタントとして日々直面する病院・クリニック経営の課題に迫ります。

第12回「諸外国の医療事情@ハワイ」

2010.09.21

                                                                            医師 コンサルタント 遠藤拓郎

 医師コンサルタントの遠藤です。前回の台湾に続き、ハワイ視察の報告となります。

今回、聖ルカクリニック(院長小林先生)への見学と意見交換のため、プラタナス野間口理事長とメディヴァ大石社長とハワイへ伺いました。

1)はじめに:外国において滞在されている日本人はどこで医療を受けているのか、の疑問

台湾報告をこちらのサイトにアップして以降、社内外でも、国際医療についての取り組み、今後の事業展開の可能性について話題が及びます。

以前、5年間インドネシアに滞在していた弊社コンサルタントの山本の話では、
・当時(1999年~2004年)インドネシアの医療は、日本の医療レベルとかなり大きな開きがあり、安心して受診できる医療機関はほとんどなかった
・家族の健康に不安を感じた時は、インドネシアの総合病院で果たして大丈夫なのか、シンガポールの病院に行ったほうがいいか、それとも日本に帰って病院受診するか、常に判断を迫られた
・日本の医療機関と同じ水準の医療を受けることのできる病院がインドネシアにもあれば、在留邦人はどれだけ安心して生活できることか
とのことでした。

また、UAEアブダビで勤務されていた方とアブダビの医療事情の話になった際も、
・アブダビでは医療の質の標準化されたものを求める動きはない
・医師はじめ、弁護士、会計士等の資格をお金を払うことで発行してしまう実態のないペーパー学校もあることが一因(資格が多い方が、転職可能数が増える。転職の回数でお給料が決まる社会のため)
・他の宗教圏からきたアジア人(特に女性)が安心して診察を受けられる環境ではないということが、周囲でまことしやかに言われていた
・そのため、地元の医療機関にかかることはなく健康診断をうけるために日本に戻っていた
とのことでした。

いずれも一消費者視点でのコメントであり、網羅感はないかもしれませんが、海外に長期滞在される日本人には健康管理をしてくれるクリニックへのニーズが少なからず、あるということでしょう。

・海外で暮らされる日本人のアンメットニーズにはどんなものがあるのか? 
・そのニーズをどういったサービス提供が満たしうるのか?
・(市場は小さいかもしれないが)いかに収益性を維持させるのか?

上記のような課題認識も持ちつつの今回のハワイ見学でしたが、この要望にこたえるクリニックがまさにハワイの聖ルカクリニックでないか、と感じました。

2)聖ルカクリニック見学と小林院長とのご意見交換から

今回は、日米医学交流財団での小林先生(聖ルカクリニック院長)と大石社長のつながりから見学をさせて頂くこととなりました。
小林先生、いろいろとお話し伺わせて頂き、おいしいヤムチャまでご馳走していただき、誠に有難うございます。

2-1)クリニックの概要:

聖ルカクリニック(小林院長)は、ハワイオアフ島のアラモアナショッピングセンターの北、ビル20階にはいっており、複数の日本人医師、日本人看護師によるハワイ長期滞在の日本人向けクリニック(入院施設なし)として運営されています。
保険システムは現地USの定める制度で運営されており、診療にあたる医師はUSの医師免許をもっていらっしゃいます。
日本ではクリニックが路面に面すか、もしくは、テナントと言っても駅ビル2階といった、わりとアクセスのよいところが一般的ですので、クリニックが20階にあって、そこからオーシャンビューであることには、斬新さも感じました。

2-2)自己開発されている電子カルテシステム:

自己開発されている電子カルテを紹介して頂きました。

2-2-1)医師の多様性を許容し進化することを前提としている

医療職が自らプログラミングすることを積極的に進めており、担当患者のサマリーは最低限の項目を入れ込んでさえいれば、医師があとは自由に加工してよく、そのためにも、プログラミングを自身で扱えるように一から指導されているとのことでした。
医療*IT両方のスキルを持つ人材の必要性を感じられて、育成にも取り組まれていらっしゃいます。

 2-2-2)保険金回収のための仕組みを内在している

患者さんは皆、USの医療対応の保険に入られており(例えば、大学の保険とか、US民間の保険とか)、2種類以上の保険に入っている方も多く、日本の保険制度と比べると請求作業は煩雑になりがちのようです。
回収は医師ではなく、事務員が代行していらっしゃるそうですが、その情報共有はすべて電子カルテを基本に行っており、回収漏れを防ぐための業務負荷を減らすべく工夫もされていました。
そのひとつが『データマイニング』の仕組みです。カルテ記載の内容から保険収載名の自動記載を可能にされており、医師がピックアップされた項目から確定作業をすることで、登録可能病名を確認して
打ち込む手間を割愛できているそうです。

また、保険会社へ支払い請求のためには、まず患者さん個人の自己負担をもらう必要があり、自己負担の未払いがたまった方には、クリニックで肩代わりし、そのうえで保険会社に支払い請求をする、ということをされているそうです。
払われる見込みのない自己負担分をまつよりもクリニックで負担してでも、残りの保険分を回収したほうがよい、という判断だそうです。
そのため、未回収者リスト、総額順、過去の延滞記録等がボタン一つでリスト表示できるようにもなっています。

今後、日本でも保険者選択の多様化、自己負担未払者の増加を背景に、こういった機能を内在したカルテの必要性も増すでしょうか。

2-2-3)訴訟対策のためのフラグ上げの仕組みも内在:

また、訴訟対策のための検査漏れ防止の工夫もされていました。
USでは患者さんの年齢によって、検診の必須対象疾患が決まっていて、それぞれについて検査を一定期間ごとにに実施するように決められています。それを実施し忘れると訴訟対象となってしまうそう
です。

乳がんを例にとると
・フォローを希望したい医師に患者さんがその意向を伝える
・医師が定期的にフォローしているということをカルテ上に明記
・それで以降、マンモグラフィー等の必須検査が画面上で定期的にフラグがあがる
となっているそうです。こういった機能は日本で今すぐでも使いたい機能でしょうか。

2-3)日本人による日本人のためのクリニック運営:

日本人でオアフ島にすむ方は口コミでクリニックのことを知り、いらっしゃるそうで、最近は、韓国人等が、日本医療への安心感・情報の取り扱いへの信頼感から受診されるケースが多くなってもいる
そうです。

クリニック事業者の視点では、他にも
・海外での医療機関経営、特に収益性維持のためには当然ながら現地の医療保険制度理解、及び官庁とのやりとりが必須であること
・日本人医師、看護師がUSの資格を取得する支援をされていること
・US医師免許を取ったあとのキャリアパスを安定化させるためには、国内外の機関との連携が必要であること
等についてご教示頂きました。

3)終わりに

今回、ハワイの『日本人による日本人のためのクリニック』である聖ルカクリニックを見学し、改めて、このようなコンセプトのクリニックがアジアはじめ諸外国主要都市にあれば、企業の海外進出、日本人の海外での活躍がますます進むのではないか、更に、そこを起点に日本医療の良さが口コミによって広まることで、日本医療のブランド強化にも寄与しうると認識しました。

もちろん、それぞれの土地の文化・制度を理解し、各ロールを務める人を発掘し、採用し続けることは容易でないため、労も多いでしょうが、そのような環境の中でも、コミットされるドクターの支援、収益性の維持、福利厚生の充実、継続しての人材採用といった必要要素を組織として揃えることに成功した際には、ユニークなクリニックとしての立ち位置を得続けられるのでしょう。

 

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