医療機関経営の日記 | コンサルタントとして日々直面する病院・クリニック経営の課題に迫ります。

第11回「台湾医療事情視察」

2010.06.21

医師 コンサルタント 遠藤拓郎

今回は、3月に行った2泊3日の台湾医療視察のご報告をさせて頂きます。

もともとはオールプライベートで休暇旅行を考えていたのですが、 社長はじめ社内の方々と話す中で、せっかく行くのであれば現地医療機関を見られる範囲で見てこよう、という話しとなり、ヒアリング先を探しましたところ、幸い社内外のご協力があり複数のアポをいれることができました。

現地の情報を教えて下さった方々、ご紹介いただいた皆様、ありがとうございます。

今回はその中でも特に学びの多かった、台中の私立大学の視察および診療科長兼国際医療部門担当医師からのヒアリング内容を、1)医療カード、2)国際医療、3)台湾医療LOW PRICE の3点についてまとめました。 "日本への示唆"も少なからずあったと思います。

1)    医療カード 

諸外国がこぞって『医療情報の一元化』に取り組み、『その情報をどのように携帯するか』について模索を始めている中、トップランナーの一つが台湾でしょうか。今回、ぜひ現物を見てみたかった "医療カード"を、台中の大学病院で見せて頂きましたので、まずはそちらのご報告です。

国民全員が一枚ずつ持っているクレジットカード大の医療カード。その表面には氏名・写真がはいっており、その横には医療情報が書き込まれているチップがついています。チップ内の記録内容は、今のところ①疾患名、②受診した医療機関と日時、③処方薬、④レセプト情報のみ。採血結果・画像等は記録チップの容量ゆえに今のところは対応できていそうですが、容量拡大すべく計画は進んでいるそうです。

外来診察室には、電子カルテ末端の横に、過去病歴閲覧のためのカードリーダが、PCに接続されています。リーダーに医師個人が持つ読み取り用カードを通し、患者情報の読み取りが可能となります。実際のPCの画面は、白黒画面でいたってシンプル。日本の電カルと比較すると、そのインターフェースデザインのシンプルさには若干拍子抜けでした。最低限の情報がよめればよく、華美に画面を作りこむ必要はなくこれで十分ということでしょう。

セキュリティーについては、中央サーバーでどの医師がどの患者の情報を閲覧したかの記録が残っており、これまでセキュリティーについて問題とする声はでていないそうです。

また、 "導入のステップ"は意外でした。てっきり、いくつかのトライアル機関で導入して、その中で見つかった課題を都度修正して、ある程度のものを提供できる段階になったところで、全国展開したのかと思っていたのですが、実際はそうではなく、一斉に国内の医療機関全てで開始したようです。「シンプルな仕組みなので導入の際のトラブルもあまりないだろうとの楽観的な考えでスタートし、実際に大きなトラブルもなかった」「日本やUSをはじめ諸外国の制度をもとに、台湾式の医療保険制度を構想しだしたのが20年程前。このカード整備もその構想の一部としてで戦略的にいれこまれていたため、医療機関にも抜本的な変革の中の一つという認識があり、導入に反対する声はなかった」とのことです。壮大なビジョンを政府および関係者間での内容共有し、そのコミットメントが後押ししたということでしょうか。

整備財源については「必要な費用はすべて国家もち」だそうです。レセプトオンライン提出機能も内在している仕組みで、この仕組みに乗らない場合に限って、費用負担が病院に課せられるらしく、それもあってか、全ての病院が参加したそうです。日本における医療ITインフラ整備のための初期投資は各医療機関の持ち出しですが、諸外国の事情も見ると、それはやや例外的でなのでしょうか。『医療ITインフラの整備のあり方、およびその財源』については、取りうる選択肢とそれをもとにした国民的議論があってもいいだろうと、改めて思いました。

2)国際医療:

もうひとつ、ぜひお話しをうかがってみたかったのが『海外からの患者受け入れ体制』について。こちらの病院はJCI認可取得済みで、現在、新病棟の最上階2フロアを、海外からの患者向けとして建設中でした。

「専属スタッフとして各国の通訳、自身の国に戻った後の医療面でのサポートをする役割のロールで専属の看護師が3名」いるそうです。台湾国内には複数(聞き間違いでなければ6箇所)のJCI病院があり、医療通訳、諸外国の医療提供機関との連携担当の看護師がアウトソース可能で、人材を中で育成せずにすむとのことでした。

また、やや唐突な質問ではありましたが、「今後10年、20年の間に、仮に日本で保険適用がなされていない医療機器、薬剤および手技を享受することを目的に、台湾での治療を希望する患者が来ることはありえるか、来た場合の受け入れは可能か?」と聞いたところ、「そのような事態になるとは想像しがたいが、受け入れはもちろん可能。現在も美容外科目的で日本人の入院患者は少ないがいる」「(自身の診療科について言えば、)台湾医療は日本と遜色はないレベルまで来ているので、今後、日本の保険収載の仕組みが硬直化した際には、台湾に治療目的で来る患者がでるという事情もなくはな
いのかもしれない」「ただ、治療後に日本に帰った時には、しっかりと患者の容体ををフォローする医療機関が必要なので、そのような機関とうまく連携できるか。その体制を誰がどのように主導するか、コミットメントの高さが重要」「医療を学ぶ上で日本は留学先として依然として魅力的であり、若い医師からも人気はある。また、アジア全体を見渡せる人材育成という観点でも日本の医療機関との提携は積極的に考えたく思っている」とのことでした。

3)台湾医療の特徴を一言で表現すると"LOW PRICE"

ヒアリングの最後に「台湾医療の特徴をあえて一言で表現するとしたらどういった言葉で表現できるのでしょうか?」とうかがったところ、「圧倒的な安さ」とのことでした。USの30分の一だそうです。

その差が30倍となると、にわかには信じ難く、外来診療を例にその場で一緒に概算しましたところ、確かにUS:台湾で30:1.5。「ちなみに、日本ではどうなのか?」と聞かれ、プロセスごとの収益を概算したところ3相当。日本は台湾よりややお高いということで、納得感のある数字でしょうか。

この安さ、それにも関わらずUSの治療成績と大差ない台湾医療には、USの民間保険会社は以前より注目しています。治療を目的とした患者さんの旅費と受け入れ病院の体制を作るための予算を提供してでも、その連携体制を作ることが財務上メリットが高いそうです。

こちらの大学の国際医療部門立ち上げのための財源もUS民間保険会社からの寄付が大半だそうで、このスキームがそのまま日本に当てはまるとは思いませんが、「医療機関への寄付」および「海外からの患者の受け入れ体制の在り方」についての議論が起こっている日本にとっては、比較検討すべき事例でしょうか。

今回の旅行では、他にも、日本の医大を卒業して台湾の免許を取得し勤務されている医師、日本の製造企業の通訳をされていて日本と台湾の文化の違いについて見識の深い方とも食事をする機会を頂きました。患者サマリーがたまると病院の電カルから催促のメールが携帯電話に届き、滞納数×日数の額が給料が引かれる話しや、無保険者(主に古くから台湾に住まわれている方)へセイフティーネットとして医療保険をあまねく整備するうえで、いつどんな政策を出したかなど、興味深い内容を聞けました。これらの気づきも何かの折にご紹介させていただけたらと思います。

終わりに:

先日の"病院経営を考える会"で鈴木文科省副大臣より「500万人以上の都市がアジアには33箇所。日本のインフラを世界に展開していくうえで、医療がその有力候補」とのお話がありました。メディヴァ国際医療部(?)でも、そのような視点から"何が日本医療の強みであるのか。何が輸出可能であるのか。逆に何は他国から学ぶべきなのか"を継続して考え、アクショナブルなことはアクションしていきたく思います。台湾医療、国際医療にご関心のある方は、ぜひご一報頂けたらと思います。

PAGETOP