コンサルタント 大曽根衛
「T字型人材」という言葉をご存知でしょうか?
経営者や人事系の職に携わる方は耳にすることも度々あるかもしれないですが、まだ一般的に認知された言葉ではないかもしれません。
最近読んだ本で、久しぶりにその言葉が出てきて、自分が携わる医療機関での日々の活動と照らし合わせながら再考してみました。
医療機関の経営の中で、人材の育成・成長は欠かせないと思いますが、どのような観点で育成していくかということになると、なかなか柱がないところが多いように感じます。医療という構造上、従事者の各職務上の専門能力については、新しく身につけ続ける必要性が高いことから、組織として大きく関与しなくても、ある程度個人の意識の中で知識の習得等に励んでいます。
このように自分の専門性のみを掘り下げていくような人を、「I」字型人材といいますが、とかく保守的になる傾向が比較的強い医療現場においては、「I」字型のみでは部門間の見えない壁が生じる、壁を高くしていく一因になってしまうわけです。
では、冒頭に書いた「T」字型とはどのような人材を言うのでしょうか。
一般的には、
・縦線が特定分野の深い専門性であり、横線は複数分野の広い知識やマネジメントの視点、コミュニケーション力等特定の能力以外にも広げていくこと
・スペシャリストかつゼネラリスト
・複数の専門分野を通して知識を広げ、新しい分野を開拓したり、異分野のノウハウとの融合等を行うことができる
と言われています。
上記ニュアンスの違いはありますが、「I」字のように一つの領域の視点や能力のみでなく、視点を広げ、必要な能力を習得していく人材を「T」字型といいます。
上述しましたが、ある程度の規模の機関になると、横の連携や全体の視点、マネジメント力が必要であるにも関わらず、組織として仕掛けが意識的にできているところは少ないのではないでしょうか。特に経営者、リーダー層は「I」字型で走り続ける限界があるはずです。医療という専門性から医師をはじめ各従事者も「I」字型が非常に多い一方で、自身で気づいていないケースがとても多いように感じられます。
私が関わるイーク丸の内はスタッフが30名ほどの健診クリニックですが、元々再生プロジェクトということもあり、急激な組織の変化が求められました。一日5人以上の人間ドック受診者受け入れは難しいと言っていた当初の状況から、2年後には平均で一日30名弱(2010年3月実績)、その他に生活習慣病健診や定期健康診断、乳腺・婦人科の単独検診、外来も対応するわけで、スタッフに要求される意識改革は半端ではありませんでした。
その中で事務長と共に取り組んだのは、まさしく「T」字型人材を育てるということだったと思います。
具体的にはいろいろありますが、
(1) 経営数字のオープン化により、全体視点を持ってもらう
(2) 会議体の改善や日々の関わり方により、各スタッフが考え、議論する風土づくり
(3) リーダーへの期待を明確化し、伝える
(4) 自己実現とクリニックの全体最適の両立を奨励し、面談時に確認する
(5) ジョブローテーションの開始
(6) 二遊間のゴロをみんなで拾い合う/助け合う気持ちの奨励
(7) 受診者の声を毎日いただき、その中からプロジェクトチームを作る
等々です。
取り組みは途上であり、ご紹介できる状態にはまだまだ程遠いかもしれませんが、このような視点でいろいろ工夫を積み重ねています。特に(5)のローテーションからは新しい芽がたくさん出てきています。
3歩進んで2歩下がるような部分も正直多いですが、全体も個人もきちんと前に進んでいる実感を、経営者だけでなく支えてくれているスタッフ全員が感じてくれることを日々祈っているわけです。
「T」字型の人材が増えてくると、会議が創造的になります。問題意識や興味・関心も広がります。他者に対して批判的でなくなります。自然にそれができるようになってくると、受診者や患者様にも伝わり、また自分たちに戻ってくる良いサイクルが生まれることを感じ始めていると思っています。当然、横線を意識する上ではポジティブな感情も必要になります。
「T」字型を追及していくと、「π(パイ)」字型も出てくるのですが、「π(パイ)」字型とは、さらにもう一つ深い専門性を付加する状態です。メインの専門性をサポートするもう一つの核となる専門性を持つことで、組織への貢献だけでなく、「T・π」の横線の広がりもさらに自然になり、横線自体も徐々に太くなるのではないでしょうか。
広げる横線や深めていく縦線はどんなものでもいいと思います。「専門業務+チームマネジメント」「専門科+医療連携」「会計業務+PCスキル」「専門業務+経営管理術」「専門科1+専門科2」「専門業務+接遇」・・・。
外部環境が大きく変化し、構造的問題を抱える医療業界であるからこそ、また様々な専門家が集まる分野であるからこそ、横を広げる意識を醸成させる仕掛けが必要です。
仕掛けが思いつかない場合は、どのようにその仕掛けを作っていくかも含めて、みんなで考える場を作ることからスタートしてもいいと思います。それが、ある意味で各自の主体性を生み、全体を考えさせるきっかけになるわけですから。
ちなみに余談ですが、メディヴァも異分野と医療業界の融合であったり、常に新しい「何か」を考え続けており、一緒に働く仲間に「T・π」字型の人が多いことを感じていますが、そう感じられることは非常に幸せなことだとも同時に思います。
さあ、いかがでしょう?
あなた自身の現状は何字型で、どこに向かっていくのか。
そして、あなたと一緒に働く仲間はいかがでしょうか?
それを知ることが、スタートです。



