クリニックを新規開業し経営を続ける中では、様々な局面で判断と決断を迫られることがあります。判断は、データや情報、経験に基づいて論理や基準にもとづいて物事を決定することであり、決断は、きっぱりと心を決めることで必ずしも論理や基準に基づくものではありませんが、いずれも経営の舵取りを行う上で、非常に重要な経営者としての責務になります。しかし、判断と決断、私はこの二つの考え方は似ているようで異なるものと考えており、上手に使いわける必要があると思います。
まず、新規開業では、様々な判断をする必要に迫られます。物件を決めること、医療機器を決めること、借入金の金額・金融機関を決めること、オープニングのスタッフを決めることなどは、複数の条件や機器・スタッフのスペックを比較検討し、また時には専門家の助言を仰いで基準をもとに物事を決めていきます。これらの局面では、採算性や投資対効果、または医療の質への貢献といった基準をもとに、できる限り論理的に決定する必要があります。
一方、新規開業における一番重要な決断は、"開業することを決める"ことになります。クリニックを開業することは、可能性として成功も失敗もありえます。
そのため論理的に考えて、"開業する"と決定することは不可能です。また、新規開業は、投資・融資の回収の観点から、どれだけ成功を収めても5~7年間は事業を継続する必要があります。そのため、時間を投資すること、また事業を継続して成功させるという意志が非常に重要になります。開業支援をしていると、先生方から「開業したいが、成功するのか?成功するのなら開業したい」という相談を受けることがありますが、これは決断と判断を混同してしまっているのではないかと思います。開業をするしないは先生の意志であり決断です。そして、開業を成功に導くためには、様々なデータや情報からできるだけ的確な判断をする必要があるのです。
開業をした後も判断と決断に迫られることは多いです。新規に医療機器を購入するかしないか、後発薬をどの程度利用するか、スタッフを雇うかどうかといった点は、それぞれにデータや情報また過去の経験に基づく判断が求められます。
またスタッフについては悩みが大きくなることが多いのですが、人事評価をどう考え昇級・賞与をどう考えるかはそれぞれに判断が求められる一方で、経験豊富な院長自らが引っ張ってきたスタッフを調和を乱すというような理由で退職勧奨することは決断の一つとなります。
こうして見ていただくと、判断と決断の違いが少しはおわかりいただけましたでしょうか。どちらも経営者として重要な意志決定であることに違いはありません。ただ、医療という科学的なアプローチには慣れていて、経営を新しく始めた先生方にとっては、データや情報で物事を決める判断は慣れていると思いますが、データや情報では決めきれない物事を決断するのは非常に不安が大きいと思います。それでも、スタッフの退職を決めるとき、新規事業を進めるとき、採算がとれるかどうしても判断がつかない中で新規医療機器の導入を決めるときなど、決断は必要です。判断と決断、その違いを理解し、その両方を上手に使い分けて経営を進めていただきたいと思っております。



