企業コンサルティングブログ

〜欧米諸国に遅れをとる日本の認知症対策〜(後編)

2013年3月29日

企業コンサルティングチームの村上です。


前回に続いて、日本と欧米の先進諸国の認知症に関する環境、及び政策の比較をしながら、日本が抱える課題について書いてみたいと思います。

 

<認知症高齢者がどこで暮らしているか>


下表を見れば、日本だけが突出して病院(入院)が多く、家で暮らす人が少ないことがわかります。 

 

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各国の認知症国家戦略には、その全てに「自宅や施設で住めるように」という脱病院の施策が盛り込まれており、他国の数値はその取り組みが結実したものと言えるでしょう。この取り組みには、経済的な側面と、認知症高齢者の人権的な側面があります。


日本でも言われていることですが、入院と自宅・施設で暮らしたときのコストには大きな開きがあります。病院に比べて、施設、自宅で療養した場合のコストは明らかに低く、それが脱病院の流れの後押しにもなっています。


また、経済的な側面以上に、脱病院の根拠になっているのが認知症の方の人権的な側面です。ご存知の通り、認知症は症状が強くなると意思表示が難しくなる病気です。どの国でも過去に認知症についての偏見と、本人の意思表示が難しくなるという問題から、人権が大きく損なわれていた時期があります。それを国家戦略の中で、認知症高齢者の人権保護を、国によっては法制化しながら大きな目標に添えていることは、各国の国家戦略で共通していることです。日本ではようやく、昨年発表された「今後の認知症施策の方向性について」という方針の中で、「認知症になっても本人の意思が尊重され~」という目標が明記されたばかりです。


また、日本のもう一つの問題は、入院期間の長さです。他国では症状の悪化に伴って緊急避難的に入院し、短期間で退院するケースがほとんどなのに対して、日本では入院期間が平均で6ヶ月、精神科病院への入院に限っては平均2.5年と長期化しています。一昨年に厚労省が行った調査では、退院して地域で見られる環境さえあれば、認知症で入院している患者のうちの半分の方が短期間で退院できるという結果が出ています。


仮に日本を他国と同様の水準(0~1%)にするためには、現在認知症で病院に入院している40万人を地域で見ていくことになりますので、本格的な環境整備が必要と言えるでしょう。
日本の問題を解決するためには、入院をさせない、退院を促進させる、地域で認知症の方を見られるようにする、といったすべての取り組みが必要です。


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このように他国の取り組みと比較すると、残念ながら、日本における認知症政策は、かなり遅れをとっていて、その位置づけも高いとは言えません。


各国の政策実現のプロセスを見てみると、イギリスやフランスでは、大統領や政府の強力なリーダーシップのもとで認知症政策が行われてきましたが、オランダのように地域の効果的な取り組みを国策化して全国に広げたという例もあります。


本来は首相直轄の政策として認知症政策が取り組まれることが望ましいのでしょうが、今の日本の現状から考えるとそれは難しく、オランダのように特定の地域(自治体)から認知症の取り組みが本格化していくことに期待したほうが良いかもしれません。


例えば、注目すべき例として京都があります。京都では、昨年2012年2月に認知症に関わる団体・個人1000人が一同に介し、認知症を生きる人たちからみた地域包括ケアを言語化した「京都文書2012」が採択されました。そして、それを行政が後押しする形で「京都式オレンジプラン」として、自治体独自の取り組みが始まろうとしています。

 

認知症の問題は、近い将来、今以上に大きな問題としてその対応に迫られることになるでしょう。認知症は65歳以上の高齢者の10人に1人、85歳以上の4人に1人と、誰もがなり得る病気です。国民一人ひとりが、自分たちの問題として、関心を持つ必要があります。


今年の4月から、国の政策である「オレンジプラン」のいくつかの取り組みがモデル事業として各地で始まっていきます。そして、京都のような自治体独自の取り組みも始まってくるでしょう。認知症政策が、少しでも早い時期に国家戦略的な位置づけになることを期待しつつ、各地域で行われる取り組みの一つ一つに注目していきたいです。

 

(参考)
認知症国家戦略に関する国際政策会議(東京都医学総合研究所、厚労省)
第2回京都式認知症ケアを考えるつどい(森俊夫)
認知症高齢者の居場所(産経新聞 2月19日)
認知症ケア高度化推進事業「ひもときねっと」

http://www.dcnet.gr.jp/retrieve/
世界の厚生労働2007
WHO世界保健統計2012年版
Australian Government Australia to 2050
デンマークの高齢者福祉政策をささえるもの(関 龍太郎)
平成24年版 高齢社会白書(内閣府)
精神病床における認知症入院患者に関する調査概要(厚労省)

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